【コラム-家事2】事実の調査と証拠調べの使い分け(手続選択)

kajityouteimousitatesyo

家事事件における3つの資料収集方法

家事事件(離婚、婚姻費用等の調停や財産分与などの各種審判)においては、いかなる事実と証拠があるのかが、非常に重要です。家事事件における資料収集の方法は、①裁判所が職権で行う事実の調査、②裁判所が職権で行う証拠調べ、③当事者の申立てに応じて行われる証拠調べの3つに分けられます(家事事件手続法56条)。これらの主な違いは以下の図表のとおりです。

資料収集方法の比較

資料収集方法 事実の調査 証拠調べ(職権) 証拠調べ(申立て)
申立権 なし なし あり
当事者の行為 職権発動の促し 職権発動の促し 申立て
裁判所の応答義務 なし なし あり
相手方の意見聴取 裁量 裁量 義務
具体例

関係人への審問

関係機関等への照会

裁判所技官(医師)の診断

家裁調査官調査

子の意思の把握

検証によらない見分

調査の嘱託

証人尋問

当事者尋問

鑑定

書証(文書提出命令、文書送付嘱託)

検証

調査の嘱託

職権による証拠調べと同じ
民事訴訟法の準用 なし あり あり
証明方式 自由な証明 厳格な証明 厳格な証明
実施の主体

家裁・裁判官、家裁調査官、裁判所技官(医師)

家裁・裁判官 家裁・裁判官

手続選択の問題

これを踏まえて、当事者の立場として、どのように制度の選択を行えばよいでしょうか。なかなか、困難な問題ですが、検討してみましょう。

重要な争点に関して、特に証明力の高い証拠を取得する必要があるとき

証明力の高い証拠資料を取得したいのであれば、厳格な手続を経た方がよいでしょう。証拠調べは、民事訴訟法によって調べの対象物ごとに厳格な手続が定められています。したがって、特に証明力の高い証拠を取得する必要性がある場合は、証拠調べを選択することを検討してみてもよいかもしれません。そして、当事者の立場からすると、証拠調べの申立てを行うのがよいと思います。なぜなら、裁判所に対して証拠調べの職権発動を促したとしても、裁判所には応答義務がないので、証拠の採否決定が行われないからです。

裁判所に応答してもらいたいとき

当事者が証拠調べの申立てを行った場合、裁判所には応答義務が課せられていると考えられています。裁判所は、当事者からなされた証拠調べの申立てに対して、証拠の採否を決定しなければなりません。しがって、裁判所に応答してもらいたいのであれば、証拠調べの申立てをすることになります。とはいえ、裁判所に応答してもらいたいという理由で手続きを選択するのは本末転倒になりかねません。たとえば、第三者に対して知っていることを話してもらおうという場合、裁判官による審問(事実の調査)によるのか、証人尋問(証拠調べ)によるのか、という選択を迫られますが、いずれを選択するのかは厳格な証明が必要かどうかによって決めるべきでしょう。応答してもらいたいから証人尋問の申立てをするというのが適切なのか慎重に検討してみる必要があります。

とはいえ事実の調査が原則である

家事事件では、資料収集は原則的に事実の調査によって行われるべきだと考えられておりますので、職権発動にせよ、申立てにせよ、証拠調べが実施されることは、稀なことだと思われます。少なくとも、離婚、婚姻費用、養育費、財産分与、面会交流といった事案では、調停段階で証拠調べが実施されることはまずありませんし、審判に移行した後も証拠調べがなされることは、ほとんどないように思われます。むやみに証拠調べを求めると、家事事件の進行を阻害することになりかねないので、慎重に判断するべきでしょう。

 


【参考文献】

  • 「逐条解説家事事件手続法」(商事法務)
  • 「コンメンタール家事事件手続法Ⅰ」(青林書院)
  • 「コンメンタール民事訴訟法Ⅳ(第2版)」(日本評論社)

 

 

 

 

 

無料相談ご予約・お問い合わせ

 

ページの上部へ戻る

トップへ戻る

0286353331電話番号リンク 問い合わせバナー