【コラム-家事4】夫婦財産契約と財産分与契約の関係

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夫婦の財産の清算に関する合意

財産分与(民法786条)の中核をなす清算的財産分与の対象となる財産は、「夫婦が婚姻中に有していた実質的共同の財産」です(最判昭和46年7月23日民集25巻5号805頁)。裏を返すと、婚姻前に取得した財産や婚姻後であっても相続で取得した財産は清算の対象になりません。清算対象から除外される財産を特有財産といいます。よく問題になるのは、婚姻前に貯めた貯金が特有財産になるかどうかです。これは、婚姻前に取得した財産なので先の説明によれば特有財産になりそうですが、実はそう単純なものではなく意見が対立することがあります。こうしたトラブルを解決するためには、予めどの資産を清算の対象とするか合意しておけばよいのではないでしょうか。この合意はどうやって行うのでしょうか。

夫婦財産契約

民法には夫婦財産契約というものが存在します(民法755条)。民法755条は、「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。」と規定しています。このように夫婦財産契約は婚姻届出前でなければ締結できないという制約があります。

問題の所在

では、離婚問題が生じる前に、問題となりそうな資産(婚姻前の預金など)を清算の対象から除外する旨の合意は、夫婦財産契約に該当するのでしょうか。該当するならば、婚姻届出前に契約書を作っておく必要があります。しかし、実務上は、協議離婚の条件について調整できた際に公正証書を作成して、どの財産はどちらに取得させるという合意をすることがあります。これは、財産分与契約と呼ばれるもので、実務上は当たり前のように通用しているものです。財産分与契約は夫婦財産契約とは別物なのでしょうか。財産分与契約が夫婦財産契約の一類型ならば、婚姻届前に締結していない時点でアウトということになりそうです。財産分与契約は、民法755条の「別段の契約」に該当するのでしょうか。

財産分与契約は夫婦財産契約とは違うみたい・・

いくつか文献を読んでみましたが、この疑問をすかっと解消してくれるものが発見できませんでした。そこで、自分なりに検討してみました。以下、本当に私見なのであまり信用しないでください。先にも紹介したとおり、夫婦財産契約の総則規定とされている民法755条は、「夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。」と規定しています。簡単にいえば、夫婦財産契約を締結しなかったら、次款の定めに従ってくださいということです。次款の定めとは、民法760条(婚姻費用分担)、民法761条(日常家事債務の責任)、民法762(夫婦財産の帰属)の3つの法定財産制度に関する条文です。つまり、民法755条は、夫婦財産契約を締結しなかったら法定財産制度に従ってくださいと述べた規定だといえます。夫婦財産契約は、法定財産制度(民法760条、民法761条、民法762条)とは異なる内容の財産関係を作り出すものだと考えられます。対して、財産分与は、民法786条が根拠条文です。財産分与契約が民法786条が規律する財産関係に関する合意であることは間違いないでしょう。すると、夫婦財産契約は民法760~762条を対象としており、財産分与契約は民法786条を対象としていると整理できそうです。結論として、財産分与契約は、民法755条の「別段の契約」には該当しない。よって、財産分与契約は、婚姻届出の後でも締結可能であるという結論になりそうです(たぶん)。

参考になる裁判例

次のような事案があります。まず、夫婦間で離婚給付に関する公正証書を作成しました。協議離婚する際に養育費や財産分与について定める場合にはよく作成する公正証書です。この公正証書において、夫婦は協議離婚することや、養育費を支払うこと、財産分与として不動産を配偶者の一方に取得させること等を合意しました。不動産を取得させるという部分は、財産分与契約にあたります。その後、この夫婦は、協議離婚せずに、離婚裁判に移行しました。その裁判の中で、公正証書における財産分与に関する合意(財産分与契約)が有効であるかどうか争われました。結論として、この財産分与契約は有効と判断されました(宮﨑地判昭和58年11月29日〔判時1132号159頁〕)。この裁判例は、財産分与契約が、民法755条の「別段の契約」には該当しないと明言してはいません。しかし、もし、財産分与契約が民法755条の「別段の契約」には該当しないのであれば、財産分与契約を有効であると判断できなかったはずです。したがって、この裁判例は、財産分与契約が民法755条の「別段の契約」には該当しないことを当然の前提にしていたと考えられます。とはいえ、はっきりと争点として扱われたわけではないので、この裁判例が本件疑問に対して明確な回答を与えているとはいえません。

実務では

ここまで理論的にあれこれと考えてきましたが、実務上は、公正証書で財産分与に関する定めをすることは当たり前のように行われています。これまで無数に作成されてきた公正証書の財産分与契約が無効になることなど現実的に考えがたいことです。すると今回検討してきたことは、はじめから結論が見えていたということになります。しかし、理論的にどう説明できるのか、検討しましたが、もやもやしたままとなりました。夫婦財産における別産制(民法762条)と婚姻解消時に婚姻中に形成された財産の清算制度である財産分与(民法786条)との関係がはっきりしないのが原因のようです。一応は、別産制は、第三者との関係で財産の所有権が夫婦のいずれにどのように帰属するのか(一方配偶者の単独所有なのか、双方配偶者の共有なのか等)についての規律であり、財産分与は財産の帰属に捕らわれない経済的な清算についての規律であると区別して考えることができそうです。しかし、夫婦財産契約として、「婚姻解消時に不動産は全て夫の単独所有とする。」という合意が可能だとした場合、この夫婦財産契約と、「離婚後、不動産は全て夫に取得させる」という財産分与契約は、同じものではないか、すると後者の財産分与契約にも民法755条の規律が及んで婚姻届前に締結しておかなければならないとなりそうだが、そうはならない。その理屈がよく分からない。というお話しです。

 

 

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