退職勧奨について

1 退職勧奨と解雇の関係

退職勧奨とは、使用者が従業員に退職を勧めることをいいます。退職勧奨によって従業員の納得が得られたら、退職願を提出してもらいます。従業員が自らの意思で退職するかたちになるため、次に述べる解雇と比較した場合、退職の有効性が争われるリスクはかなり低くなります。

解雇は、使用者による労働契約の解約のことです。解雇は、従業員の意思にかかわらず使用者が一方的に雇用契約を終了させるものです。ただし、合理的な理由のない解雇は無効となります(解雇権濫用法理)。そのため、解雇によって従業員を退職させた場合、よく解雇の有効性が争われることになります。

このように使用者にとっては、解雇よりも退職勧奨の結果として辞職してもらった方が、はるかにリスク回避につながります。

したがって、解雇の合理的な理由があると思われるような場合であっても、まずは退職勧奨によって退職届の提出を促した方がよいことが多いと思います。多くの場合、解雇は退職勧奨に応じてもらえない場合の第2の手段と位置づけるべきでしょう。

 

2 退職勧奨と試用期間の関係

たとえば、入社後3か月間は試用期間として、その期間中の労働者の勤務状況を評価して本採用とするかどうかを決定するという採用制度を取ることがあります。

この試用期間の趣旨から、よく、使用者は試用期間中又は試用期間経過後、自由に採用を拒否してもよいと誤解していることがあります。しかし、使用者は試用期間を設けたからといって、自由に採用を拒否してよいわけではありません。

使用者が採用を拒否するためには、合理的な理由が必要とされています。ただし、解雇と試用を比べた場合、試用の方が、採用拒否のハードルは低くなります。

とはいえ、使用者からすれば、試用といえども採用を拒否すると、争いに発展するリスクがあるということです。

そこで、「退職勧奨と解雇の関係」で述べたのと同じように、試用にあっても採用を拒否する場合は、退職勧奨を行う方がよいこともあります。

 

3 退職勧奨がトラブルに発展するケース

退職の意思表示の効力が争われるケース

使用者において、解雇のリスクを恐れるあまりに、どうしても退職勧奨に応じてもらいたいという気持ちが強すぎると、退職の意思表示の効力が争われて、退職が無効になることがあります。

退職勧奨は、使用者が労働者に退職を勧める行為であり、これに対して労働者が退職の意思表示を行うことで、合意退職又は辞職と評価されて退職の効果が発生します。

このように退職勧奨による退職が成立するためには、退職の意思表示が有効に行われることが条件となります。もし、退職の意思表示が無効になると合意退職や辞職の効果は発生しなかったことになり、依然として労働契約関係が継続していることになります。

例えば、以下のような態様で退職勧奨を行うと、退職の意思表示が取り消されて無効になることがあります。

  1. 錯誤による取消し
    休職中の従業員が無効な配転命令を受けて、これに応じない限り復帰できないと誤信して退職の意思表示をした場合
  2. 強迫による取消し
    労働者を長時間一室に押し留めた状態で懲戒解雇をほのめかしながら退職を迫った結果、労働者を畏怖させて退職の意思表示をさせた場合
  3. 詐欺による取消し
    客観的には解雇事由等が存在しないのに、それがあるかのように偽って退職の意思表示をさせた場合

 

使用者が損害賠償請求を受けるケース

退職勧奨の態様が、労働者の任意の意思形成を阻害するに止まらず、不法行為にまで該当するような場合、使用者が労働者から損害賠償請求を受けるケースがあります。

例えば、以下のような態様で退職勧奨を行うと不法行為に該当するおそれがあります。

  1. 侮辱行為
    退職勧奨の言葉が許容限度を超えて侮辱行為にあたる場合
  2. 不当な人事の利用
    降格、配転、出向などの不当人事を用いて退職を誘導した場合
  3. 暴力やいじめ
    労働者に退職の意思表示をさせるために、上司による暴力を伴ういじめが繰り返されたり、無意味な仕事を割り当てたりした場合
  4. 孤立のための嫌がらせ
    退職の意思表示をさせるために労働者を孤立させた場合
  5. うつ病を患った労働者への退職勧奨
    うつ病で休職した従業員に対し、解雇の可能性を示唆したり、本人が退職勧奨に応じないと述べているにもかかわらず長時間にわたり退職を勧めたりした場合

 

4 退職勧奨によるトラブルへの対処法

退職勧奨に関するトラブルの予防

まずは、退職勧奨によるトラブルを未然に防ぐことが重要です。

先に述べたとおり、退職の意思表示は労働者の真意に基づくものでなければなりませんので、錯誤、詐欺、強迫と評価されるようなことがないようにしなければなりません。また、退職勧奨が行き過ぎると、損害賠償請求を受けたりすることもあるので注意が必要です。

 

萎縮せずに退職勧奨を行うために

だからといって、退職勧奨を行う側が萎縮してしまっては、効果的な退職勧奨を行うことができません。退職勧奨は、人と人とが対面して退職に誘導しようというものですから、生きた言葉を使わなければ、説得は難しいでしょう。

 

退職勧奨として許容される範囲を事前に把握する

そこで、退職勧奨によるトラブルを防止しつつ、効果的な退職勧奨を行うためには、事前にどの程度の態様であれば許容されるのか知っておく必要があります。過去の裁判において、具体的にどのような言動を取ると許容されなくなるのか実例が示されておりますので、裁判例に精通している弁護士からアドバイスを受けておくべきでしょう。

 

弁護士に関与してもらう

難しい局面になることが予想されるのであれば、弁護士を通じて退職勧奨を行ったり、弁護士に同席してもらったりすることも検討してよいと思います。ただし、弁護士を関与させると、それだけで従業員にはプレッシャーになるはずなので、弁護士と連携して、適正・公平な手続を踏むように注意しましょう。

 

記録を残す

退職勧奨の場における発言について、後々、言った、言わない、の争いにならないように、議事録を作成して参加者の署名をもらったりするとよいでしょう。

 

書面の記載を工夫する

退職勧奨の結果、退職願の提出を受けることになります。退職願は、通常、シンプルな書式となっています。もし、後日、争いになりそうな場合は、退職願を作成する際に、退職の意思表示に至る過程に誤解が生じていないことや、意思を強要されていないことを記載しておくと良いかもしれません。ただし、記載によっては使用者に不利に用いられるリスクもあるため、どのような記載にするかは弁護士とよく相談するべきでしょう。

 

トラブルが発生した場合はどうするか

労働者から退職の効力を争われた場合はどうするべきでしょうか。

弁護士に相談して、退職勧奨に問題がないのであれば、退職は有効であると回答することになります。もし退職勧奨に問題があって、退職の効力を維持できそうにない場合は、労働者と交渉して、再度退職勧奨を行うことも考えられます。ただし、このような場合、労働者は退職する意思がないでしょうから、執拗な退職勧奨と評価されないように注意が必要です。

退職勧奨に関して損害賠償請求のみを受けた場合、金銭的な要求だけが問題となっており、労働者との雇用契約が終了していることには争いがないことになります。使用者からすると金銭の支払い要求に応じるべきかどうかという問題なので、事実関係を調査のうえ弁護士と相談して適切な経営判断を行うことになります。

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