残業代を請求された時の対処方法

使用者が従業員から未払残業代の請求を受けた場合の対処方法を説明します。

 

請求された残業代の金額を検証する

従業員から未払残業代の請求を受けた場合、はじめに対処することはその金額が妥当かどうか検証することです。なぜなら、使用者から見た場合、残業代が過大に請求されていることがあるからです。

労基法上、残業代の計算方法は明確に定められています。これは、以下のような算定式になります。

1時間あたりの賃金×割増率(1.25~1.75)×残業時間数

この数式に代入される数字が大きいほど残業代の金額は大きくなりますが、具体的に代入される数字は、算定する人の考えや評価によって変わってきます。

 

残業代の金額が変わるポイント

「1時間あたりの賃金」を求める場合、基本給のほかに何を含めるか争いになることがあります。精勤手当、家族手当、通勤手当等の諸手当を基礎となる賃金に含めるかどうかは、手当の実体を評価して決定されます。

「割増率」は、通常は25%、休日は35%、深夜は25%というように法定されています。しかし、35%増になる休日は、週に1回の法定休日のみです。会社によっては法定休日が明確でない場合もあるので、何曜日を法定休日と見なすのかによって割増率が変わります。

「残業時間数」として認められる時間が何時間なのかも争いになります。たとえば、待機時間や仮眠時間のような活動を伴わない時間等を労働時間に含めるかどうかは、諸事情を評価して決定されます。

このように未払残業代の計算は、算定者の評価によって左右されます。

 

少しの違いが大きな金額の差に

残業代請求権は2年間で時効消滅します。使用者からすれば、過去2年分の残業代の請求を受けるということです。したがって、「1時間あたりの賃金」、「割増率」、「残業時間数」の捉え方が少し変わるだけでも、合計金額は大きく変化します。未払残業代を請求する労働者は自身にとって有利な考え方の下に残業代を算定してくるはずです。

したがって、使用者の目線からすれば、労働者の請求は過大になっていることがあるので、充分な検証が必要です。

 

使用者の立場で残業代を計算する

労働者から提示された残業代が妥当であるか検証するとともに、使用者の考えに基づいて残業代の計算を行います。

 

示談交渉を行う

使用者の立場から計算しても未払残業代の発生を否定できそうにないとの結論に至ったら、示談による解決を目指します。

示談で解決した方が、解決までの時間が短く済みますし、費用も少なく済みます。また、他の従業員による残業代請求を誘発するリスクやレピュテーションリスクも軽減することができます。

示談する時は、必ず示談書を作成しましょう。示談書は紛争の蒸し返しを防止するために必須のものですが、それ以外にも第三者への口外禁止を約束してもらうことで紛争の拡大を防止することができます。

 

裁判所の手続に備える

金額に開きがあって示談できない場合、労働審判や労働裁判に発展することが予想されます。労働審判は、労働問題に特化した民事調停手続です。労働審判を経ずにいきなり労働裁判が開始されることもありますが、先に労働審判が提起されることもよくあります。

裁判所が関与する手続では、証拠が重要になってきます。

たとえば、労働者が主張する残業時間に争いがある場合、タイムカード等の客観的な証拠があれば、その打刻時間によって労働時間が認定される傾向にあります。対して、労働者が自作したメモしかないような場合、通常はこのメモだけで労働時間を認定することは困難です。残業時間の認定において、タイムカードは非常に重要な証拠といえます。

このように、証拠は非常に重要なものです。労働審判や労働裁判に発展する可能性がある場合は、争点ごとに、どのような証拠が必要か、それをどうやって収集するか、充分に検討しなければなりません。

 

残業代の消滅時効とは

残業代を請求する権利は、2年間で時効消滅します(労基法115条)。したがって、労働者から2年以上前に発生した残業代の請求を受けた場合、使用者は時効消滅を理由に支払いを拒否できます。

ただし、2年の経過によって残業代請求権が自動的に消滅するわけではありません。使用者が労働者に対して時効を援用しないかぎり請求権は消滅しません。時効を援用する前に請求権の存在を認めるような言動を取ると時効の利益を放棄したとみなされて、消滅時効の効果を受けることができなくなるので注意が必要です。

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