【コラム-刑事1】駐車場内事故と酒気帯び運転罪の成否

tyusyajo

お酒を飲んでから駐車場で車を走らせた場合に酒気帯び運転罪が成立するのでしょうか。駐車場といってもスーパー、ショッピングモール、テーマパーク、コンビニ、飲食店、銀行、花火大会などのイベントの際に設置される臨時駐車場など、その形態は多種多様です。

お酒を飲んでから車を運転してしまうと、酒酔い運転罪(道路交通法117条の2第1号)か酒気帯び運転罪(道路交通法117条の2の2第3号)のいずれかの罪に問われる可能性が出てきます。二つの違いはまた別のコラムでお話しするとして、実際によく問題になるのは、酒気帯び運転罪の方です。酒気帯び運転罪は、呼気一リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを保有していた場合に問題になる犯罪です。アルコールチェッカーに息を吹くのは、この呼気一リットルあたりのアルコール濃度を測っているということですね。お酒を飲むと簡単に基準を超えます。自分はお酒に強いからとか、少し寝たから大丈夫とか、いうのは間違った発想です。

では、酒気を帯びた状態で駐車場内を車で走行してしまった場合、酒気帯び運転罪の罪に問われるのでしょうか。駐車場は道路ではないから、酒気帯び運転を禁止している道路交通法が適用されないのではないか、ということが問題になります。では、検討して参りましょう。

まずは、条文から見ていきます。

道路交通法の117条の2の2は、「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と規定しています。酒気帯び運転は3号に定めがあります。

「第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」

これを以下の4つに分解してみます。

  • 1 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して
  • 2 車両等(軽車両を除く。次号において同じ。)を
  • 3 運転した者で、
  • 4 その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの

お酒を飲んで、呼気一リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを保有した状態で、駐車場内で自動車を走らせた場合、1、2、4の要件は満たします。問題は、3です。3は、「運転した者で」という要件ですが、なぜこれが問題になるかというと、道路交通法上の「運転」の意味がいろいろと複雑だからです。

道路交通法において「運転」とは、「道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従つて用いること(自動運行装置を使用する場合を含む。)をいう。」と定められています(道路交通法2条1項17号)。さらに、ここで登場した「道路」とは、「道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所をいう。」と定められています(道路交通法2条1項1号)。

さて、かなりややこしくなって参りましたね。最後に行き着いた概念である「道路」とは、箇条書きにすると以下の3つに分けられることになります。

  • a 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第二条第一項に規定する道路
  • b 道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第八項に規定する自動車道
  • c 一般交通の用に供するその他の場所

a.やb.の道路がなにものか、ということはまた別のコラムに譲ります。とある駐車場が「道路」にあたるかどうかは、つまるところc.「一般交通の用に供するその他の場所」に該当するかどうかということになります。さて、ここまで条文を追いかけてきて、ようやく議論の前提が整いました。ここからが、ようやく法律の解釈になります。

「一般交通の用に供するその他の場所」と言われても、なにそれ?と思いますよね。

これは、高速道路、国道、県道、有料道路のように誰が見ても道路というものではないが、現実に人や車が通行しており、その結果、交通の安全や円滑を図る必要が認められる場所のことを指すということです。これで、一段階、具体化しました。しかし、これでもさっぱりですよね。

道路っぽくないものでも道路として扱おうということなんだよね。じゃあ、人や車が通れる場所ならなんでも道路になっちゃうの?そんなことはなくて、道路交通法という法律を適用する必要性が認められるほどのものでなければなりません。それをどうやって選り分けるかということですが、それが判断基準というやつですね。過去の裁判例等から導き出される判断基準というか判断要素は以下のものになります。

  • 道路としての体裁の有無
  • 客観性、継続性、反復性
  • 公開性

ここから先はケースバイケースの評価・判断になります。過去の裁判例を分析して、道路に該当すると判断された事例、判断されなかった事例を比較検討して、当該事案ではどのような結論が正しいのかを判断することになります。画一的に判断できない。これが法律の難しいところだと思います。ちなみに、かなり大雑把な意見ではありますが、大型の駐車場で、車線が整備されていたりするものや、国道や県道、市道などの道路に面したコンビニの駐車場である程度の広さがあるものは道路交通法上の駐車場に該当すると判断されやすいのではないかと思います。

こうして、問題になっている場所(駐車場)が、道路交通法の「道路」に該当するということになれば、「3.運転をした者で、」という要件を充足することになり、酒気帯び運転罪に問われ得るという結論になります。


【参考文献】「執務資料 道路交通法解説(18訂版)」(道路交通執務研究会編著)

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