【コラムー家事1】家事事件における「事実の調査」とは

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家庭裁判所の審判期日で、裁判官から「事実の調査をしました。」と言われることがあります。「事実の調査」が何を意味しているのか、何となく分かるような、分からないような。やっぱり、よく分かりませんよね。これを理解するためには、家事事件の本質の一つである公益性という理念に触れる必要があります。

家事審判及び家事調停(併せて、「家事事件」といいます。)には、「事実の調査」という概念が存在します。まずは、家事事件手続法の条文を見てみましょう。

第56条 家庭裁判所は、職権で事実の調査をし、かつ、申立てにより又は職権で、必要と認める証拠調べをしなければならない。(※258条1項によって調停手続にも準用される)。

この家庭裁判所が職権でしなければならない「事実の調査」とは何でしょう?

端的に表現すれば、事実の調査とは、証拠調べ以外の裁判資料の収集方法です。裁判資料の収集方法には、証拠調べという方法と事実の調査という方法の2つの方法があります。この裁判資料の収集方法のうち、証拠調べという方法でないものが事実の調査ということになります。事実の調査について理解するためには、まず、「証拠調べ」について理解する必要があります。

家事事件の証拠調べには、民事訴訟法の規定が準用されます(家事事件手続法64条1項)。そして、民事訴訟法上、証拠調べは、証拠方法(取調べの対象とできる有形物)と証拠調べ手続(取調べの仕方)が法律で限定されています。たとえば、証拠調べにおいては、証拠方法は、証人、当事者、鑑定人、文書、検証物等に限定されており、それぞれについて、どうやって取り調べるかのルール(たとえば証人尋問には当事者に立会権と尋問権が認められている等)が定められています。すると、事実の調査とは、証拠方法と証拠調べ手続が法律の規定によって限定されていない裁判資料の収集方法であるということになりそうです。

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では、どうして家事事件手続法は、「裁判所が職権で事実の調査をしなければならない」と定めているのでしょうか。ずばり、それは事件の公益性によるものです。家事事件が扱う事件の中には、婚姻関係や親子関係など身分関係に関するものが存在します。たとえば、ある当事者間の親子関係の有無は、その当事者間だけで完結するものではなく、その効力が第三者にも及ぶことがあります。このように家事事件は、当事者の私的な利益に止まらず公益性を有しているので、真実に合致した結論を導かなければならないという要請がより高まります。そこで、裁判の結果を左右する裁判資料の収集という重要な作業を当事者にのみ委ねるのは適当ではないという考えが出てくるのです。

家事事件手続法56条1項は、「家庭裁判所は、職権で・・しなければならない。」と規定して、家庭裁判所に裁判資料の収集作業を義務づけました(職権探知主義の採用)。また、家庭裁判所による真実発見の実効性を高めるために、法律のルールに縛られない資料収集方法、すなわち「事実の調査」を原則に据えたのです。これが、「事実の調査」の概念と理念についての説明です。

当事者から申出がなくても裁判所が自らの判断で証拠調べを行えることを職権探知主義といいますが、家事事件手続法第56条は、家事事件において職権探知主義を採用することと、裁判所が資料収集の方法として、自由な方法(事実の調査)と厳格な方法(証拠調べ)のいずれの方法も選択できることを明言しているのです。

とはいえ、当事者からすれば、調停や審判の前提資料として扱ってもらえるのであれば、それが事実の調査を経た結果なのか、証拠調べを経た結果なのか、あまり関心がないかもしれません。実際、書類を裁判資料として扱う場合には、事実の調査なのか証拠調べなのかあまり意識する必要がないことが多いと思います。経験上、家事事件では、裁判資料の収集はほとんどが事実の調査によって行われているように思います。

そうすると、反対に、家事事件において敢えて証拠調べを行わないといけない場合とはどのような場合なのか?ということの方が重要なテーマになってきます。当事者が敢えて証拠調べを求めるべきなのはいかなる局面なのでしょうか。それは、また別の機会に検討したいと思います。


【参考文献】

  • 「コンメンタール家事事件手続法Ⅰ」(青林書院)
  • 「コンメンタール民事訴訟法Ⅳ(第2版)」(日本評論社)
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