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死亡危急時の遺言とは
遺言にはいくつかの方式がありますが、病気などで生命の危険が迫っている場合に行うものとして死亡危急時遺言(臨終遺言)というものがあります。
死亡危急時遺言のやり方
1.死亡の危急にあること
遺言者に生命の危険が迫っていることが要件です。遺言者が危険が迫っていると自覚していればよく、必ずしも客観的な危険の存在が要求されるわけではありません。ただし、全く危険がないのに本人が危険だと思っているような空想の類いではこの遺言はできません。生命に関わる病気を患っており、その病状が悪化している等、ある程度、客観的な事情は必要だと思われます。
2.3人以上の証人の立ち会い
少なくとも3人の証人が遺言に立ち会わなければなりません。以下にあてはまる方は証人の資格がありません。たとえば、遺言によって財産を譲り受ける方や遺言者の子は、証人になれません。証人適格を欠く者は立ち会い自体を避けるのが無難です。
①未成年者
②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
③署名できない者(後記6を参照)
④遺言者の口授を理解できない者(後記3を参照)
⑤筆記が正確であることを承認する能力がない者(後記5を参照)
※証人・立会人の欠格事由は、民法974条各号に定められていますが、同条3号の「公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人」であることが欠格事由になるとの規定は、死亡危急時遺言のような特別方式による遺言には適用がありません。
3.証人の一人への遺言の口授
遺言者は、証人のうちの一人に口頭で遺言の内容を伝えて記憶させます。証人が遺言の内容を読み上げて、遺言者が単にうなずいただけでは口授があったとはいえないと考えられています。
4.口授された遺言の筆記
口授を受けた証人は、口授された遺言の内容を筆記して遺言書を作成します。自分の手で書くことは必須ではなく、タイプライターでもよいと考えられていますが、口授を受ける前に用意したものが有効かは疑問があります。一言一句、口授されたとおり記載する必要はありません。訂正する場合は、各証人が訂正箇所に押印すること、訂正箇所を明らかにする記載をしたうえで署名する必要があります。
5.遺言の読み聞かせ・閲覧
遺言書を作成した証人は、遺言者と他の証人に遺言書を読み聞かせるか、閲覧させて、筆記が正確であることの承認を得る必要があります。この読み聞かせ・閲覧を経て承認された旨の記載は必要ではありません。
6.証人の署名・押印
遺言書には、立ち会った証人の全員が署名・押印をしなければなりません。遺言者本人は署名・押印する必要はありません。
7.遺言の確認
遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認の審判を申し立てる必要があります。申立がなされると、遺言者が生存している場合は、家庭裁判所調査官が遺言者の下へ出向いて危急時遺言の内容が遺言者の真意に基づくものかの調査が行われます。立会証人として遺言書に署名した方は、個別に調査官と面談し、自分に証人適格があることや、遺言が行われた際の状況について事情の説明を求められることがあります。
死亡危急時遺言後の問題
1.6か月の経過
死亡危急時遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、効力がなくなります。たとえば、病状が軽快して自筆証書遺言を作成できるようになった時から遺言者が6か月間生存した時は、死亡危急時遺言の効力は失われます。
2.検認
相続開始後には家庭裁判所での検認が必要です。
※死亡危急時遺言を実際に行う場合、上で述べたこと以外にもさまざまな問題が発生することが予想されます。可能な限り専門家にご相談ください。