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はじめに
近所の交差点に設置されているカーブミラーが老朽化してきたので、撤去のうえ新設したいと思ったのですが、カーブミラーが立っている土地は道路を管理している市役所の所有地ではありませんでした。他人所有の土地に設置されているカーブミラーを勝手に撤去したり、新設したりすることはできません。カーブミラーは公道に沿って設置されているので、そこを通行する可能性のある万人にとって必要なものですが、特にその行動を毎日のように通行している付近の住民にとっては重要なものです。そこで、選択肢の一つとして、自治会が土地を買い取ってカーブミラーを管理するということを考えましたが、そもそも自治会って土地を購入して、土地の所有者になれるんでしょうか。
自治会は土地や建物を所有できるか
例えば、土地や建物などの不動産の所有者になったり、自動車や鉛筆とかポケモンカードの所有者になったりできる資格のことを権利能力(法人格)といいます。そんな資格だれでも持っているじゃん?とお思いかもしれません。確かに、人間であればそのとおりです。人間は出生すると当然に権利能力を持ちます(民法3条1項)。この人間を自然人と呼んで法人と区別します。分かりやすくいえば、自然人とは個人のことで、法人とは人の集団です。ただし、法人とは、単なる人の集団ではなく、人の集団のうち権利能力(法人格)を有する団体ということになります。実は財産の集合体に法人格が付与された財団法人もありますが割愛します。最も身近な法人は株式会社、合名会社、合同会社等の営利法人だと思われます。医療法人や弁護士会は、非営利法人です。これらの団体は、単なる人の集団ではなく、法人格を付与された集団です。では、○○自治会とか、○○町内会は、土地や建物、車を所有できるのでしょうか?すなわち、○○自治会は法人格を有するのでしょうか。
「権利能力なき社団」である自治会
先に、自然人と法人というものがあると言いましたが、ややこしいことに、自然人でも法人でもない「権利能力なき社団」というものもあります。権利能力なき社団は、法人と同じような実体を有するけど法人格を取得していない団体です。権利能力なき社団は、人の集団なので自然人ではなく、法人格を持たないので法人でもありません。ただし、実体は法人と同等なので、法人格を有するのと近い扱いがなされてきました。
○○自治会という各地に存在する自治会のうち、法人と同じような実体を有するに至ったものは権利能力なき社団として扱われることがあります。権利能力なき社団は、権利も義務も総有的に帰属することになります。総有というのは法人の所有形態に近い扱いです。それでは、権利能力なき社団と認められれば、もう法人格は要らないのでしょうか。
実は、権利能力なき社団にはできないことがあります。それは、社団名義で登記することです。肩書き付きの代表者名義の登記もできません。とある自治会が、権利能力なき社団としての実体を備え、不動産を取得したとしても、自治会長などが、肩書きなしの個人名義で登記することになるのが通常です。ところが、そうなると自治会長がお亡くなりになったり、転居していったりした場合、いろいろな理由で新たな自治会長の名義に登記されないというトラブルが発生します。もちろん、法人格を有する団体でも代表者が代わることはありますが、法人名義で不動産登記を経ておけば、代表者が替わっても不動産登記の名義を変更する必要はありません。また、自治会長の個人名義で登記していると、登記上は自治会長が個人的に所有しているように見えてしまいます。時間の経過と共に登記がなされた当時の事情を知る人がいなくなったりすると、それが自治会長の個人的な所有物なのか、自治会の所有物なのか争いが生じかねません。しかし、法人名義で登記されている場合、それが法人のものなのか、代表者のものなのか、争われることはまずありません。
そのため、自治会に法人格を取得させる意味があります。
自治会も「認可地縁団体」になれば法人格を取得する
結論をいえば、○○自治会も、市町村長の認可を受けて「認可地縁団体」というものになれば法人格を取得します(地方自治法第260条の2第1項、第7項)。先に述べたような不動産登記上の不都合に対処するために平成3年の地方自治法の改正によって導入されました。認可地縁団体となった自治会は、法人格、すなわち権利義務の主体となる資格を獲得する結果、自治会の名義で不動産登記をすることも可能となります。
このように認可地縁団体の制度は、はじめは不動産登記にかかわるトラブルに対処しようということで設けられた制度であるため、自治会等が不動産又は不動産に関する権利等を保有する目的を有していることが認可の要件とされていました。 しかし、不動産等を保有する予定のない自治会であっても、その地域に暮らす住民が全体として取り組むべきことは存在します。たとえば、地域の高齢者等への生活支援や地域の交通の維持、地域の特産品開発・販売等です。そういう活動を行うときに、地縁団体そのものが権利を有したり、義務を負ったりできるようにした方が便利です。そこで、令和3年の法改正により、不動産等を保有する目的を有することは認可の要件から除外されました。 認可地縁団体として認可されるための要件は次の4つです(地方自治法260条の2第2項)。
- その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行つていると認められること。
- その区域が、住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。
- その区域に住所を有するすべての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数の者が現に構成員となつていること。
- 規約を定めていること。
認可地縁団体として自治会ができること
自治会が認可地縁団体となり法人格を取得すると、自治会の名前で契約を締結して取引行為を行うことができます。たとえば、自治会の名前で、賃貸借契約を締結したり、銀行の預金口座を開設したり、訴訟で行動できたりできるようになります(ただし、これらの社会的活動は、法人格がないとおよそできないというわけではありません)。
ただし、法人は、当該法人の基本約款に定められた目的による制限を受けます。この基本約款とは、株式会社でいえば「定款」のことを指しますが、認可地縁団体の場合は、「規約」です。認可地縁団体は、規約に定めた目的の範囲内において法人格を有することになります(地方自治法260条1項)。したがって、規約に定めた目的の範囲外の行為は、無効となります。ただし、目的の範囲内に属するかどうかは、かなり緩やかに判断されます。たとえば、営利法人である会社の場合、目的の範囲外とされることは事実上ありません。認可地縁団体は、会社に比べれば目的の範囲は狭く捉えられると思います。したがって、規約に目的をどう定めるかは重要になると思います。
もし、地域で取り組むべき問題が生じたとしたら、まず自身の所属する自治会や町内会といった地縁団体が市町村の認可を受けた団体なのか確認してみるとよいでしょう。また、将来、地域の団体として取り組むべきことが予想される場合には、認可を受けることを考えてみてもよいと思います。