【コラム-家事3】事実の調査としての調査嘱託と証拠調べとしての調査嘱託

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調査の嘱託

調査の嘱託というのは、平たくいえば、裁判所が官庁や会社等の団体に対して、事実の調査を依頼し、回答を求めることをいいます。たとえば、婚姻費用調停等で当事者の前年度の源泉徴収票上の支払総額を勤務先に問い合わせたりすることです。以前のコラムで、家事事件の資料収集方法には、事実の調査による方法と証拠調べによる方法とがあると説明しました。調査嘱託にも、事実の調査としての調査嘱託(家事事件手続法62条)と証拠調べとしての調査嘱託(家事事件手続法62条が準用する民事訴訟法186条)とがあります。以前のコラムでは事実の調査によるべきか、証拠調べによるべきかは、特に証明力の高い証拠資料を得る必要があるかどうかによって判断するのが一般的であると説明しました(【コラム-家事2】家事事件における「事実の調査」と「証拠調べ」の使い分け(手続選択)を参照)。しかし、調査嘱託に関しては若干様相が異なります。

手続きに大差はなく、証明力の違いも生じないのが通常

調査嘱託は、事実の調査であっても、証拠調べであっても、裁判所から関係機関に対して調査・報告を求めるという手続に違いはありません。要は第三者にお尋ねするという手続なので、手続きの厳格さに大差はなく、そこから得られた回答の信用性にも通常、違いは生じません。証拠調べとしての調査嘱託だからといって、事実の調査の調査嘱託より証明力の高い証拠資料が得られることを期待できるということにはならなそうです。

裁判所に応答義務があるかどうか

裁判所に応答義務があるかどうかという点では、両者は異なります。事実の調査は職権で行われます。したがって、当事者ができるのは職権発動を促すことですが、裁判所はこれに対して応答する義務はありません。これに対して、当事者が裁判所に対し、証拠調べとしての調査嘱託の申立てを行った場合、裁判所は証拠の採否を決定しなければなりません。裁判所に応答義務が課されているということは、それだけ当事者の申立権を尊重しているともいえます。その結果、当事者が証拠調べとしての調査嘱託を申し立てた場合の方が、調査嘱託が採用されるという結論に結び付きやすいかもしれません。裁判所にどうしても調査嘱託を行ってもらいたいという場合には、職権発動を促すより、証拠調べの申立てをした方がよいということになりそうです。

相手方に意見聴取の機会を付与するかどうか

家事事件の証拠調べ手続は、民事訴訟法の規定が準用されます。民事訴訟法では、当事者から証拠の申し出があると、相手方の手続保障と双方審尋主義の観点から、相手方当事者に対して陳述の機会が与えられます(民事訴訟法161条2項、民訴規則88条1項)。この陳述は、立証事項が事件と関係がないとか、立証事項と証拠との関連性がないといった意見です。したがって、証拠調べとしての調査嘱託の申立てをした場合、相手方に意見陳述の機会が付与されるので、相手方から否定的な意見が出ることがあります。そういう否定的な意見が出されると調査嘱託の採用が見送られてしまうかもしれません。そこで、調査嘱託を実施してほしい当事者からすれば、相手方への意見聴取を回避したいと思うかもしれません。そのためには、事実の調査としての調査嘱託を選択するのがよさそうです。しかし、実際には、事実の調査として調査嘱託を申し立てたとしても、裁判所は、裁量で相手方から意見を聞くことが多いはずです。したがって、相手方の意見聴取を回避する目的で事実の調査を選択するということにはあまり意味がないように思われます。

個人に対して調査嘱託を発することができるかどうかが異なる

大きな違いとしては、事実の調査としての調査嘱託は、個人を相手に対しても発することができますが、証拠調べとしての調査嘱託は、個人に対して発することができません(民事訴訟法186条)。したがって、医師や公認会計士などの専門家個人に対して回答を求めたいのであれば、事実の調査としての調査嘱託を選択するしかありません。ただし、証拠調べとしての調査嘱託であっても、対象が医師個人ではなく、その医師が所属する医療機関であれば、行うことが可能です。

申立てによる調査嘱託の法令上の根拠

証拠調べとしての調査嘱託には、職権によって発動されるものと、当事者の申立てを受けて採用決定されるものとがあります。このように当事者に調査嘱託の申立権があることは当然の前提となっています。しかし、その根拠条文である民事訴訟法186条の文言は、「裁判所は、必要な調査を官庁・・その他の団体に嘱託することができる。」となっています。裁判所が行うとだけ規定されていて、当事者の申立てにより行うという文言が見当たりません。実際、民事訴訟法186条は、民事訴訟において例外的に職権による証拠調べを認めた規定であると文献には書いてあります。ただし、弁論主義が採用されている民事訴訟においては、当事者の申立てによって行う調査嘱託こそが原則であり、職権による調査嘱託はごく例外的なものであると考えられていますし、実務上も、当事者の申立てがないのに裁判所が職権を発動して調査嘱託をするのは稀です。なんだかもやもやしますが、そういうものだと思うしかないみたいです。

調査嘱託の方式による比較

調査嘱託の方法 事実の調査 証拠調べ(職権発動) 証拠調べ(申立て)
裁判所の応答義務 なし なし あり
意見聴取の機会付与 裁量 裁量 義務的
団体に対する調査嘱託 可能 可能 可能
個人に対する調査嘱託 可能 できない できない

参考文献

  • 「コンメンタール家事事件手続法Ⅰ」(青林書院)
  • 「コンメンタール民事訴訟法Ⅳ(第2版)」(日本評論社)
  • 伊藤眞著「民事訴訟法(第7版)」(有斐閣)
  • 上田徹一郎著「民事訴訟法(第4版)」(法学書院)
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