<刑の「一部」の執行猶予の創設>
刑事法の分野で、「刑の一部の執行猶予」という制度が新たに創設されました。
本年6月までに施行されることになっています。
刑の一部の執行猶予制度とはどんな制度でしょうか。
昔からある刑の全部の執行猶予制度との違いは何でしょうか。
<刑の全部の執行猶予とは>
犯罪を犯した場合、懲役刑や禁固刑を科せられることがあります。
たとえば懲役2年の刑罰を科せられた場合、その刑罰が執行されると刑務所に収監されることになります。
しかし、懲役2年の刑罰を科せられても、それをすぐには執行しないことがあります。
これが刑の執行猶予というもので、たとえば「懲役2年、ただしその刑の執行を3年間猶予する」といった具合です。
判決が出ても刑務所に収監されることなく、家に帰してもらえます。
その後、新たな犯罪を犯さないで執行猶予期間(先の例では3年間)を満了すると、懲役2年という刑罰を執行されることはなくなります。
懲役2年という刑の全部について執行を猶予するので、刑の全部の執行猶予といいます。
これまでは、執行猶予といえば、制度上、刑の全部の執行猶予しかなかったので、わざわざ「全部の執行猶予」と呼んだりせずに単に「執行猶予」と呼んできました。
今回、一部の猶予という制度ができたので、これと区別するために、従前の執行猶予制度は、刑の全部の執行猶予と呼ぶようになりました。
<刑の一部の執行猶予とは>
刑の一部の執行猶予とは、先の例でいえば、懲役2年のうち、1年は刑を執行し、残り1年は刑の執行を猶予するというものです。
どうなるかといえば、まず、1年について刑の執行を受けるので、刑務所に収監されて1年間をそこで過ごすことになります。ただし、残り1年については、刑の執行を猶予するということなので、1年を経過すると刑務所から出所することになります。
2年の懲役刑を科せられたのに途中で刑務所から出てくるという意味では、仮釈放の制度と似ています。
<何がねらいなのか>
仮釈放の制度があるのに、わざわざ刑の一部執行猶予という制度を創設したのはなぜでしょうか。
一部執行猶予制度のねらいは、薬物犯罪者など再犯率の高い者に十分な保護観察期間を設定することにあります。
薬物犯罪者などの真の更生を図るためには、刑務所を出所した後、病院で治療したり、生活態度を改めたりする必要があります。
保護観察はそのお手伝いをする制度ですが、仮釈放制度下では、仮釈放された時点で残っている刑期しか保護観察に付せませんでした。
先の例でいえば、刑務所で1年を過ごした後、仮釈放で社会に出た後は、保護観察に付せるのは残りの刑期と同じ1年間だけです。
残りの刑期と同じ期間だけでは、その人に本当に必要なサポートが難しいのが実情でした。
刑の一部執行猶予の制度では、残りの期間がどうであるかにかかわらず、1~5年の間で必要なだけ保護観察に付せることができます。
薬物依存が顕著な人で、更生に困難が伴うことが予想される場合などは5年間の保護観察に付したりできるのです。
たとえば、懲役2年、ただし懲役2年のうち懲役1年(刑の一部)については5年間執行を猶予し、その5年の間保護観察に付するとした場合どうなるかといえば、次のようになります。
①まず、刑務所に収監されて1年間服役します。
②1年を経過すると刑の一部執行猶予の効果で出所します。
③出所後、5年間は保護観察によるサポートを受けながら社会生活を送ります。
④5年が経過すると保護観察が終了し、普通に生活することになります。
刑罰の重要な目的の一つに、その犯人が二度と犯罪を犯さないようにするということがあります(再犯の防止)。
これまでの刑事システムでは、薬物犯罪など一部の犯罪については、再犯の防止効果が不十分でした。
刑の一部執行猶予の制度は、再犯の防止のために創設された制度といえるでしょう。