8月3日、白馬岳登山2日目、午前3時30分に起床。身支度を調えて白馬岳山頂を目指す。少し頭痛と吐き気がする。軽く高度障害かも。少し不安だが頭痛薬を飲んで出発することにした。山荘の外へ出ると富山湾の方向に夜景が広がっていた。暗闇の中にぽっかりと浮かんだ光がゆらゆらと動いて見える。昼間には気づかなかった街がそこにある。何とも幻想的な風景だった。山荘からは15分程度で山頂に着いた。ご来光をみるために続々と人が集まってくる。白馬岳の東面は急激に切り立った崖だ。遙か下に流れる沢が広大な樹林帯を縫って走っているのが見える。よく晴れていて遠くにいくつか雲が浮かんでいる。刻々と周囲が明るくなる。景色は千変万化の表上を見せた。どの一瞬も同じではない。そして、日が昇りはじめた。溶けた鉄のようなあかね色の球体が地面から生えてきたようだ。それは嘘みたいに巨大で圧倒的な存在感のある何かだ。太陽が天体であることが実感できる。あっという間に日は昇って周囲の物体を照らしはじめた。山、草、花、朝露、岩、空、雲、風、全てが輝いている。完璧な調和。振り返ると富山湾が空に浮かんでいるように見えた。いつのまにか気分はすっきりしていた。
朝日に照らされながら稜線歩きを開始した。360°どこを見ても美しい景色が広がっている。少し歩いては立ち止まり、目を閉じて空を仰いだ。もっと深く、もっとあますことなく、全てを感じ取りたい。早朝の稜線歩きは最高だ。白馬岳山頂から三国境、小蓮華山を通過して、船越の頭へ向かう途中、雷鳥の親子に遭遇した。立山で見たひな鳥よりも一回り大きい雷鳥の子が4羽、一生懸命に草花をつついている。草原を奔放に駆け回って一羽足下までやってきた。雷鳥は本当に愛らしい鳥だ。通りがかった登山者が足を止めて一様にほほ笑んでいた。今日はもう一度くらい雷鳥に会えそうな気がする。そんな予感がした。
船越ノ頭あたりから眼下に白馬大池が見えはじめた。あとで知ったが、船越ノ頭から白馬大池山荘までの登山道はその名も雷鳥坂というそうだ。予感したとおり今度は一羽だけでいる大人の雷鳥を見ることができた。
白馬大池山荘から乗鞍岳へ登り、栂池へ下る。この道は安山岩がごろごろしていて、下りはかなり足の筋肉を使った。栂池自然園まで下って、下山は終了した。ここからはロープウェイに乗り、ゴンドラを乗り継いで栂池高原まで下る。11時頃には栂池高原へ到着した。栂の湯という温泉に入ろうと思っていたが営業は12時からとのこと。近くに無料の足湯があったのでそちらで我慢して帰路につく。回送業者に車を運んでおいてもらったので、すぐに車に乗ることができた。
今回は予定通りの山行ができた。充足感と安堵感、美しい風景の記憶、心地よい疲労感を抱えながら帰路についた。