このページの目次
1 離婚協議書とは
協議離婚のためには離婚届を作成して市区町村に提出します。
離婚届には親権者の記載が必要なので、離婚届の提出によって親権の問題は同時に解決します。
しかし、離婚に付随するその他の問題、たとえば養育費、面会交流、財産分与、慰謝料、年金分割については離婚届に記載することはできません。
これらの離婚に付随する問題に関する合意を口約束で済ませた場合、後日、約束をしたのかどうか争いになったり、約束したことを履行してもらえなかったりした場合、あらためて協議を行う必要があります。
しかし、このような場合、協議は長期化することになりますし、当初期待していたような合意が成立しないこともあります。
このようなトラブルを未然に防止するためには離婚に関する合意の内容を書面化しておく必要があります。このために作成される書面がいわゆる離婚協議書と呼ばれるものです。
離婚協議書とは、いわば離婚に関する夫婦間の契約書です。
2 離婚協議書の作成を弁護士に依頼するメリット
弁護士に離婚協議書の作成を依頼するメリットは次の3つです。
|
メリット1― 離婚協議書が無効になることを防ぐ
離婚協議書は、離婚に関する契約書ですから、売買契約書のように自由な方式で作成することができます。
ただし、一般の契約書と同じように合意の内容に法的拘束力を持たせるためには、契約の成立要件や有効要件を満たす必要があります。
例えば、意思表示の形成過程に問題があって当事者に誤解があれば後日、詐欺や錯誤によって意思表示が取り消される可能性があります。
また、債務の内容が特定されていなかったり、客観的に履行不可能であったり、法令や公序良俗に違反していたりすると、契約が無効になることがあります。
弁護士に離婚協議書の作成を依頼すれば、合意の内容が無効になることを防ぐことができます。
メリット-2 当事者のニーズに合致した離婚協議書を作成できる
弁護士に離婚協議書の作成を依頼することの2つ目のメリットは、自分のニーズに合致した離婚協議書を作成できるということです。
たとえば、養育費について合意する場合、支払いの時期をいつからいつまでとするべきか、月額いくらが妥当なのか、進学や病気など臨時の出費についてどうするか考える必要がありますが、事案によってはたったこれだけの問題でも複雑になることがあります。
また、財産分与にしても、何が財産分与の対象財産になるのか、財産をどうやって評価するのか、住宅ローンが残っている場合にどうするべきか等について、非常に複雑になることがあります。
このような場合に自分の希望に合致した離婚協議書を作成するためには、弁護士の法律知識と経験が必要です。
メリット3―紛争の蒸し返しを防ぐ
弁護士に離婚協議書の作成を依頼することの3つめのメリットは、意に添わない合意をしてしまって将来後悔したり、紛争が蒸し返されたりすることを防ぐことができるということです。
多かれ少なかれ夫婦間では、離婚に対する考え方にさまざまな温度差があるのが通常です。
たとえば、一方が早く離婚したがっていて、他方がそうでもない場合、早く離婚したがっている方は離婚を成立させることを優先させるあまり、よく考えずに相手の要望どおりの離婚協議書を作成してしまうことがあります。
また、一方が熱心に勉強して法律に詳しくなっているが、他方はあまり法律に詳しくない場合、法律に詳しい方が一方的に有利な離婚協議書を作成してしまうことがあります。
そのほか、親権さえ獲得できればよいとか、面会交流さえできればよいとか、養育費さえもらえればよいとか、慰謝料さえもらえればいと考えて、将来どうなるかをあまり考えずに離婚協議書を作成してしまう、ということはしばしば起こり得ます。
離婚という重大問題に直面して、冷静に将来を見越した行動を取ることは非常に難しいことです。したがって、一時の感情に支配されて合意を成立させてしまうのは誰にでも起こり得ることでしょう。
しかし、実際に離婚してみると、離婚協議書で合意したとおりでは、よろしくないということに気がつくことがあります。例えば、養育費が多すぎ又は少なすぎたとか、面会交流の頻度が多すぎた又は少なすぎたとかといったことが起こることがあります。
不本意な合意をしてしまった当事者は後悔することになるでしょうし、後悔するだけでは済まずに再度協議を開始することになったり、弁護士に依頼して調停を申し立てざるを得なくなったりすることもあるでしょう。
せっかく離婚して新しい一歩を踏み出そうとしていたのに、また何か月も、場合によっては何年も元夫や元妻との紛争を引きずるということが起こり得ます。
もちろん、離婚協議書を作成する際、自分にとって有利な合意を成立させようとすることは間違いではありません。しかし、一方に有利すぎる合意は、その分だけ紛争を蒸し返す危険を持っています。
離婚事件の経験が豊富な弁護士であれば、交渉の経緯、相手の性格や言動、合意によって実現される未来等を全て計算に入れたうえで、将来紛争が蒸し返されるリスクを回避しつつ、依頼者のニーズに合致した離婚協議書を作成することが可能です。
3 離婚協議書と公正証書の作成
離婚協議書は、公正証書として作成することもできますし、公正証書でない書面で作成することもできます。
離婚協議書を公正証書のかたちで作成する場合、国の公務員である公証人に作成を依頼することになります。
公証人は全国各地にある公証役場に数名ずつ配置されています。公正証書を作成するためには公証人と事前の打ち合わせをすることが必要です。また、公証人に支払う費用も必要になります。
離婚協議書を公正証書のかたちで作成する最大のメリットは、養育費、財産分与、慰謝料といった金銭の支払いに関して強制執行を可能にする点にあります。
もし離婚協議書を公正証書のかたちで作成していなかった場合、養育費等の支払いが滞ってもすぐに強制執行を申し立てることはできません。強制執行をするためには、改めて裁判をしたり、調停をしたりする必要があります。しかし、裁判や調停を経て強制執行を申し立てられるようになるまでには相当の時間、費用、労力がかかります。
対して、離婚協議書を公正証書のかたちで作成しておけば、約束した養育費等の支払いが滞った場合、すぐに強制執行を申し立てて給料や預金を差押えて養育費等の回収を試みることができます。
給料の差押えは勤務先に余計な事務の負担を発生させます。したがって、会社員であれば給料が差し押さえられるのはなるべく避けたいところです。
そこで、公正証書を作成しておけば、そもそも債務不履行が発生しにくいという副次的な効果があります。
公証人になるのは元裁判官や元検察官であり弁護士と同じく法律の専門家です。ただし、公証人が行う業務は、既に当事者間で意見が一致した内容を公正証書にすることです。公証人にとって合意の前提となる養育費や財産分与の算定、面会交流の要領等についてアドバイスをすることは本来的な業務ではありません。したがって、合意を形成する前提となる法律問題(養育費として適正な金額はいくらか等)について疑問がある場合は、弁護士に相談するのがよいと思います。