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ご家族が交通事故でお亡くなりになったら…
交通事故の被害はある日突然発生します。事前に交通事故に遭うことを予測できる人はいません。ある日突然、交通事故でご家族がお亡くなりになった場合の遺族の悲しみは筆舌に尽くしがたいものです。
ここでは、交通事故でご家族が亡くなってしまった場合に法律上、注意するべきことについて御説明いたします。
加害者側からの賠償額の提示への対応
交通事故でご家族がお亡くなりになった場合、御遺族は加害者側の保険会社から賠償額の提示を受けることになります。被害者がお亡くなりになっているということもあり、加害者側の保険会社の対応は比較的丁寧なことが多いと思われます。また、提示される金額も日常的な感覚からするとかなり高額なものであることが多いと思われます。
ご家族がお亡くなりになって傷心しているところに、丁寧な口調で高額な賠償額の提示を受けるので、御遺族は、きっと保険会社は適正な金額を算定して提示してくれているのだろうという気持ちになるでしょう。
しかし、どんなに担当者の物腰が丁寧であったとしても、提示された賠償金の額が適正な金額になっているとは限りません。任意自動車保険会社が営利を目的としている以上、できるだけ支払額を減らしたいという方針が働いている可能性は否定できないところです。
そこで、賠償額の提示を受けてもすぐに示談に応じることはせずに、弁護士に相談して適正な金額になっているか確認するべきだと思います。
自賠責の仮渡金
突然の交通事故でご家族がお亡くなりになってしまった場合、葬儀費用等に困ることもあると思います。このような時は自賠責保険に仮渡金の支払いを請求することで290万円の支払いを受けることができます。
死亡事故が発生した場合の相続問題
交通事故によりご家族がお亡くなりになった場合、死亡した方に発生する損害賠償請求権(慰謝料と逸失利益の合計額)が相続の対象となります。
遺言書があれば、その遺言書の解釈によってこの損害賠償請求権が誰に帰属するか決まることになります。そこで、まずは遺言書があるかどうかを確認することになります。親族の中に遺言書を預かっている者がいないか、公正証書遺言が存在しないか等、遺言書の探索を行うことになります。
もし遺言書がない場合は、民法が定めるルールに則って相続されることになります。その場合、損害賠償請求権は、相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて各法定相続人に承継されることになり、各相続人は単独で債権を行使できるようになります。
ただし、相続人間で損害賠償請求権を遺産分割の対象に含めるとの合意をした場合は、遺産分割協議で誰にどれだけ帰属させるかを決めることができます。
法定相続の場合、だれが法定相続人であるかを確定させるために被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取り寄せて確認する必要があります。親族にとってはわかりきったことかもしれませんが、保険会社から支払いを受けるためには戸籍等で法定相続人の範囲を証明することが求められます。
法定相続人の範囲が確定されたら、法定相続分に応じて損害賠償請求権が分割して承継されることになります。この法定相続分は、民法900条で以下のように定められています
相続人の組み合わせ |
配偶者相続人 |
血族相続人 |
配偶者と子 |
2分の1 |
2分の1 |
配偶者と直系尊属 |
3分の2 |
3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 |
4分の3 |
4分の1 |
配偶者(夫、妻)は常に相続人になります。血族相続人は、子、直系尊属、兄弟姉妹の順番で相続人になるので、もし子がいれば、直系尊属、兄弟姉妹が相続人になることはありません。
子のような血族相続人が複数名いる場合は、法定相続分は等しくなります。
例えば、御主人が交通事故で亡くなり、賠償額(慰謝料と逸失利益の合計)が5000万円、法定相続人が妻、長男、長女の3名である場合、各相続人が相続によって取得する損害賠償請求権は次のとおりです。
法定相続人 |
法定相続分 |
相続する債権額 |
妻 |
2分の1 |
2500万円 |
長男 |
4分の1 |
1250万円 |
長女 |
4分の1 |
1250万円 |
親族固有の慰謝料
相続の対象となる慰謝料のほかに親族が固有に請求できる慰謝料(近親者慰謝料)があります。近親者慰謝料を請求できるのはお亡くなりになった方の父母、配偶者(内縁を含む)、子です。祖父母、孫、兄弟姉妹については、被害者と特別に緊密な関係にあった場合に固有の慰謝料を請求することができます。
慰謝料を相続できる地位にない方でも、自分自身の権利として近親者慰謝料を請求できます。
もし近親者慰謝料を請求できそうな方がいる場合、後々トラブルにならないようにその方も含めて示談を成立させるのがよいと思います。
葬儀費用
交通事故でご家族を亡くした場合に発生する葬儀費用(葬儀、法要、供養の費用、仏壇・仏具購入費、墓碑建立費)も損害賠償の対象となります。
金額的には葬儀費用として請求できるのは原則として150万円程度です。ただし、実際に支出した費用がこれ以下の場合、たとえば100万円しか支出していない場合には100万円が限度となります。
実際にはこれを上回る費用が発生したとしても、特段の事情がなければ150万円以上の金額が認められる可能性は低いでしょう。たとえば、死亡場所と居住地が遠く離れていて葬儀を2か所で行うことになった場合や被害者の身上から葬送を手厚く対応することが無理からぬ場合などは、150万円を超える葬儀費用が認められたことがあります。
葬儀費用を請求できるのは現実に葬儀費用を支払った親族等です。
ただし、お亡くなりになった方の現金から支出されるなど、実質的に誰が費用を負担したのか明確にならない場合には、相続人が相続分に応じて負担したものとして、各相続人が負担分を請求できることになります。
加害者の刑事処罰に対して親族ができること
交通事故で被害者が死亡した場合、加害者は自動車運転過失致死罪によって刑事処罰を受けることがあります。亡くなられたご家族の親族にとって、加害者に対する刑事裁判がどのように推移して、最終的にどのような処罰がくだされるかは重大な関心事でしょう。
このようなときに利用できるものとして被害者参加制度というものが存在します。これは、お亡くなりになった方の親族(配偶者、直系親族、兄弟姉妹)が刑事裁判に参加できる制度です。具体的には以下のような権限が認められています。
被害者参加人の権限 |
内容 |
公判期日への出席 |
公判期日で検察官の隣に座る |
証人尋問 |
証人に対して情状に関する尋問を行う |
被告人質問 |
加害者に対して尋問を行う |
弁論としての意見陳述 |
事実認定や法の解釈・適用の意見 |
被害に関する心情の意見陳述 |
被害に関する心情を述べる |
上記の権限は求めれば必ず認められるわけではなく、それぞれ検察官に申し出て、これを裁判所が許可した場合に認められることになります。そのためには、どうやって申出を行うべきかについて弁護士のサポートを受けた方がよいでしょう。
また、被害に遭ったショック等で自ら参加することが難しい場合、弁護士に委託することで、代わりに刑事裁判に参加してもらうこともできます。