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1 従業員に訴えられそうな場合とは
使用者が従業員から訴えられそうな場合の具体例としては、以下のようなものがあります。
- 従業員が「訴えてやる!」と捨て台詞を残していった場合
- 従業員から社内相談窓口に相談が寄せられている場合
- 従業員が上司や同僚に対して労働に関する不満を漏らしていた場合
- 従業員が法律事務所や合同労組(ユニオン)に出入りしていた場合
- 従業員が証拠収集(社内資料の入手、会話録音、聞き込み等)をしている場合
- 従業員から未払残業代支払請求書というタイトルの手紙を受け取った場合
2 内容証明郵便を受け取ったら
例えば、従業員から未払残業代支払請求書といったタイトルの内容証明郵便を受け取ったり、従業員の代理人弁護士から受任通知というタイトルの内容証明郵便を受け取ったりした場合、どうすればよいでしょうか。
内容証明郵便は、いつ、どんな内容の文書を、誰から誰に宛てて差し出したのかを郵便局(日本郵便株式会社)が証明する制度です。差出人は、決められた様式で同じ内容の文書を3通作成します。3通のうち1通は受取人に差し出され、1通は日本郵便が保管し、残り1通は差出人が保管することになります。
後に裁判になった場合、いつ、どんな内容の文書を、誰から誰に宛てて差し出したのかを証明する必要が生じることがあるのですが(催告による時効の完成猶予等)、そのような場合に内容証明郵便の謄本が証拠となります。また、交渉態度が問題になることもあるので、交渉の経緯をかたちに残すという意味もあります。
こうしたことから、内容証明郵便の差出人が、強い権利行使の意思を有していることが推認できるので、これを放置した場合、裁判等の紛争に発展する可能性が高くなります。
そこで、内容証明郵便を受け取ったら、これを放置せずに適切な対応を取ることが必要です。
3 初動対応の重要性
このように内容証明郵便を受け取った場合、対応を誤れば裁判等の紛争に発展してしまい、たくさんの時間と費用がかかります。
したがって、内容証明郵便を受け取った場合の初動対応は非常に重要なものとなります。
まずは、従業員の要求に法律的な根拠があるのかどうか正確に分析する必要があります。そのためには、事実調査、証拠の有無とその評価、法律の解釈・適用といった法的な分析が必要となります。
たとえば、事実調査であれば、従業員が主張しているようなサービス残業の実態が本当に存在したのかとか、上司から部下に対するパワハラ発言が本当にあったのか等について社内調査を実施することになります。
そして、事実を立証する証拠があるかどうか、証拠があるとしてそれがどの程度、事実を裏付ける力(証明力)を有しているのか分析を行います。
そして、関連する労働法規の解釈・適用を調査します。場合によっては、行政機関からの通知・通達を調べたり、参考になる裁判例を調査したりすることになります。
そうした分析・検討を経て、従業員の要求にどの程度の法律上の根拠があるのかを正しく把握します。
最後は経営判断として、どのような対応を取るべきか決定して従業員に書面で回答するのが通常です。はじめの回答で間違った方向に進んでしまうとそれを挽回するのは困難になるので、慎重な対応が求められるところです。
しかし、通常、内容証明郵便を受け取った場合、「1週間以内に回答してください。」といったように短期間での回答を求められることがあります。上記のような初動対応のためには1~2週間でこれを完了するのは困難です。弁護士同士が交渉を行う場合、職業倫理に基づいた信頼関係があるので、合理的な期間であれば回答期限を延長してもらえます。
また、先の流れからも分かるように、適切な初動対応のためには法的な知識、経験、技術が必須ですので、早期に弁護士のサポートを受けるべく、可能な限り早く法律相談を受けるべきでしょう。もし顧問弁護士がいるのであれば、初動対応はスムーズになります。
4 内容証明郵便を受け取った後の流れ
内容証明郵便を受け取った後の流れの一例を示します。