このページの目次
身柄拘束手続の流れ
逮捕・勾留といった身柄拘束を受けた方やその御家族は、1日でも早く釈放して日常生活に戻してほしいということでしょう。もし裁判を受けることになれば、数か月もの間、身柄拘束が継続することもあります。身柄拘束からの解放を求めることで裁判の終了を待たずに早期に釈放してもらえることがあります。その方法は、身柄拘束手続の段階に応じて異なるので、まずは身柄拘束手続の流れを御説明します。
逮捕に対する不服申立て
身柄拘束は、警察官の逮捕によって開始されるのが通常です。しかし、逮捕に対する不服申立て(準抗告)は認められていません。短時間でも逮捕されるということは重大な不利益です。逮捕がきっかけで新聞報道されることもあります。事前に逮捕が予想できるのであれば、自ら逃亡や罪証隠滅を疑われるような行為に及んで逮捕の可能性を高めるようなことは慎むべきでしょう。
勾留前の弁護活動
逮捕は最長3日間でありその間に勾留に切り替わらなければ釈放されます。そこで、逮捕されてしまった後は、勾留に切り替わらないように求めていきます。
検察官に対する意見
被疑者は、警察官によって逮捕された後、48時間以内に検察官に送致されます。検察官は送致を受けてから24時間以内に裁判官に勾留請求します。もし検察官がこの時間内に勾留請求しなければ被疑者は釈放されます。
そこで、被疑者が検察官に送致されたら、検察官に対して勾留請求しないように意見を述べます。意見では、勾留の要件(勾留の理由と必要性のいずれか)を欠くことを説明し、これを裏付ける証拠があれば一緒に提出します。被疑者を監督する意思と能力のある者(同居親族等)の身元引受書を提出します。
裁判官に対する意見
検察官が勾留請求しても、勾留するかどうかを決定するのは裁判官です。被疑者には事前に裁判官と面談して弁解する機会が与えられます(勾留質問)。しかし、被疑者自身が勾留の理由・必要性を欠いていることを論証するのは困難なことです。したがって、弁護人が裁判官に意見を述べることも重要です。
裁判官が検察官の勾留請求を却下すると釈放されます。ただし、これに対して検察官が不服申立て(準抗告)をすると、準抗告が棄却されるまで釈放されません。
勾留決定後の弁護活動
裁判官が勾留決定すると勾留が開始されます。勾留の期間は勾留請求日から10日間とされていますが、さらに10日間を限度として延長されることがあります。
勾留状謄本交付請求
勾留決定の後、勾留状謄本交付請求を行います。勾留状謄本を確認することで、いかなる被疑事実により、どういう理由で勾留されたのかを確認できます。
勾留決定に対する準抗告
裁判官の勾留決定に対して不服申立て(準抗告)を行うことが可能です。準抗告が認容されると勾留決定は取り消されます。準抗告を行うかどうかは、勾留状謄本を検討して、勾留の要件(勾留の理由と勾留の必要性)を欠いているといえるかどうか判断して決めます。
準抗告棄却に対する特別抗告
勾留決定に対する準抗告が棄却された場合、さらに不服申立て(特別抗告)を行うことが可能です。申立期間は5日間です。これは被疑者又は弁護人に対して準抗告を棄却する決定書が送達された日の翌日からカウントされます。
勾留理由開示
勾留された場合、裁判官に対して勾留理由開示を請求できます。何人でも傍聴できる公開の法廷において勾留理由を明らかにさせることで、不当な勾留を抑止しようという制度です。この請求は直接、勾留からの解放を導くものではありません。しかし、後々身柄拘束からの解放を求めていくうえでプラスの材料を集められることがあります。
勾留理由開示では、被疑者や弁護人が意見を述べることもできます(一人10分以内)。意見陳述の内容は調書化されます。自白強要等の違法な取調べを受けている場合、勾留理由開示における意見陳述によってタイムリーに証拠を作成することが可能です。
接見禁止決定が出ていて被疑者と接見できない家族等が、勾留理由開示の傍聴を通じて被疑者と顔を合わせることができます。
勾留取消請求
勾留決定の後で事情が変化して勾留の理由や勾留の必要性がなくなったような場合、勾留取消請求を行います。勾留決定に対する準抗告が主に勾留決定時に存在した事情を前提に勾留の是非を争うのに対し、勾留取消請求は勾留決定以後に生じた事情を前提として勾留の是非を争う点で異なります。
勾留の執行停止申立
勾留の執行停止とは、勾留の執行を一時停止して身柄の拘束を解くことをいいます。病気の治療、家族の危篤・危篤、就職や学校の試験などの特殊な事情がある場合に認められることがあります。
勾留延長に対する弁護活動
勾留は10日間に限り延長されることがあります。これに対して、検察官、裁判官に意見を述べたり、準抗告や特別抗告を行ったりできるのは1回目の勾留決定のときと同様です。
保釈
保釈とは
保釈とは、起訴された被告人に対し、保釈金の納付を条件として勾留の執行を停止し、身柄の拘束を解く制度です。
保釈は、勾留の効力を残したまま一時的にその執行を停止するという意味では勾留執行停止の制度と似ていますが、次のように勾留執行停止とは大分異なります。
<保釈の特徴-勾留執行停止との比較>
保釈 | 勾留執行停止 | |
申立ができる時期 | 起訴後のみ | 起訴前も可 |
保釈保証金の納付 | 必要 | 不要 |
申立ての意味 | 被疑者等の請求権行使 | 裁判官の職権発動を促す |
許可される場合 | 勾留執行停止より緩やか | 病気治療の場合等限定的 |
釈放されている期間 | 禁錮以上の判決宣告時まで | 必要に応じて指定される |
保釈申請のポイント
どのような場合に保釈は許可されるのでしょうか。
法律の規定上、法定の除外事由がない限り保釈が認められ(権利保釈)、除外事由がある場合でも、裁判所が相当と判断すれば保釈が認められる(裁量保釈)という構造になっています。
しかし、実務上は裁量保釈によって保釈の是非が決定されているのが実情です。その場合、証拠隠滅や再犯のおそれ、逃亡のおそれ、保釈が必要な具体的事情(失職のおそれ等の保釈されない場合に生じる弊害等)が考慮されることになります。
保釈の相当性と必要性 ・証拠隠滅・再犯のおそれがないか |
身元引受書
身元引受書は、保釈された被告人の行動を監督し、裁判に出頭させることを約束する書面です。保釈請求をする際に添付資料として裁判所に提出します。これによって被告人が不適切な行動に及ぶ可能性が低くなると評価されれば、保釈が認められやすくなります。
身元引受人は法律上の責任を負うことはありませんが、道義的な責任は負います。
身元引受書に署名すべき人は、被告人を日常的に監督できる方を選びます。通常は同居の親族を身元引受人とします。同居の親族がいない場合は、できるだけ近くで暮らしている親族や勤務先の上司に頼むこともあります。いずれにせよ、被告人に対して強い監督を及ぼせる方を身元引受人とするべきです。
保釈金
保釈が許可される場合、保釈保証金を納付する必要があります。
保釈金の額は、裁判所が決定します。これは、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額とされています。平たくいえば、被告人の資産と対比して、逃亡の歯止めとなるような金額となります。ケースバイケースではありますが、最低でも200万円程度になることが多いと思います。
せっかく保釈が許可されても保釈金を納付できないと釈放されません。そこで、保釈申請にあたっては事前に調達できる金額を確認して、担当裁判官に納付可能な金額を伝えておくことになります。
保釈保証金を準備できない場合、保釈保証金を立て替えてくれる機関の利用を検討するのもよいでしょう。
保釈の条件
保釈が認められる場合、保釈金の納付とは別に保釈の条件が定められます。保釈の条件に違反すると保釈が取り消されて保釈金が没収されるので注意が必要です。保釈の際に定められる条件はケースバイケースですが、一般的な条件は、住居の制限、被害者や証人との面会禁止、旅行の制限等です。
保釈許可の確率
ここ数年の保釈率(勾留された被告人のうち保釈が許可された人の割合)は30%前後となっています。勾留された被告人の中には、保釈請求をしていない人も含まれているので、保釈請求をした場合に保釈が許可される確率はもっと高いはずです。
ご依頼・ご相談別