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1 保険会社の提示額を検討しなければならない理由
保険会社から賠償額の提示を受けたら、その金額で示談してよいかどうかよく検討する必要があります。なぜなら、保険会社がはじめに提示する金額は、適正な金額より低いのが通常だからです。
2 自賠責保険と任意保険の関係
交通事故によって被害者に人的損害(傷害や死亡)が発生した場合、この損害をカバーするものとして自賠責保険があります。
自賠責保険は強制加入の保険です。民間の損害保険会社が自賠責保険の引受保険会社となっていますが、法律上、非営利事業とされているため、引受保険会社には損失も与えない代わりに、利益も与えないようになっています。自賠責保険は、非営利の社会保障的な保険といえます。
これに対して、任意保険は加入の強制はありません。任意保険は、民間の損害保険会社が行う営利事業です。任意保険の対人賠償保険は、自賠責保険と同じく人的損害をカバーするものですが、自賠責保険がカバーしない部分をカバーすることを目的としており、自賠責保険の上積み保険であるといわれています。
裏を返せば、自賠責保険とは、被害者救済のためにとりあえず損害の一部を填補するものであると理解できます。
3 一括払いの制度
こうなると、被害者はまず自賠責保険の引受保険会社に請求して保険金の支払いを受け、なお不足があれば任意保険会社に請求するという二度手間を強いられることになりそうです。
しかし、この二度手間を省くために、まず、任意保険会社が被害者に自賠責保険金に相当する金額と任意自動車保険金を一括して支払い、次に、任意保険会社が自賠責保険の引受会社から自賠責保険金相当額を取り戻すという制度が実施されています(任意自動車保険・自賠責保険一括払い制度)。
したがって、被害者は、加害者の任意保険会社とだけ交渉して保険金(賠償金)の支払いを受ければよく、実際にそういう運用になっています。
4 任意保険会社の提示額が低い理由
一括払いの制度の下では、任意保険会社から被害者に提示される賠償金額は、「自賠責保険金+任意自動車保険金」となっているはずです。
しかし、任意自動車保険会社と被害者との示談交渉は、民間企業と一般人との間で行われる民事的な契約ですので、はじめにいくらを提示して、最終的にいくらで示談するかは当事者間の自由な意思に委ねられています。
そうであれば、営利企業である任意自動車保険会社が、自社の支出を可能な限り抑えて、営利を上げたいと考えたとしても、何も不思議はありません。
仮に、任意自動車保険会社が、自賠責基準で算定された賠償額を被害者に提示して、そのまま示談が成立した場合、任意保険会社は、一度はその賠償額を被害者に支払うことになりますが、すぐにその賠償額の全額を自賠責保険の引受会社から取り戻せることになります。この場合、任意保険会社の最終的な支出は0で済むということになります。
こうした構造が背景にあって、任意保険会社から被害者に提示される賠償額が低額になっているのだろうと想像できます。
5 保険会社と示談する前に
このように通常、任意自動車保険会社から提示される賠償額は、適正金額と比較して低額になっています。もしかすると、あなたが提示された示談金の額は、自賠責からもらえる金額と同じ水準に過ぎないかもしれないということです。
そのような場合は増額されて然るべきですので、示談を成立させる前に適正な金額なのかどうか、あといくらくらい上積みされれば適正金額になるのか等について弁護士に相談して賠償額の診断を受ける必要があります。