二日目の朝-ホテルを出発する
ツーリング二日目の令和5年5月4日は午前6時前に目が覚めました。前日はなんだかんだで寝るのが遅くなり、4~5時間ほどしか眠れませんでした。部屋のカーテンを開けると朝日が飛び込んできました。「よし!」と声を出すと、心が走り出しました。この感覚には憶えがあります。日本アルプスの山々にソロで挑んでいた頃、出発の朝に感じたのと同じ感覚です。眠気も疲れも感じず、気持ちがわくわくして、はやく出発したくて、いてもたってもいられない、そういう感覚です。
私は、はやる心を抑えながら慎重に荷造りと身支度を調えました。ちなみに私のツーリング時のフル装備は、上下ともインナー式のプロテクターを着込み、その上に革ジャン、革パンを身につけ、さらにバイク用エアバッグを羽織り、ブーツもインナー・アウターの2層に別れているごりごりのレーシング仕様で、ヘルメットは当然フルフェイス式で、グローブもナックルガードが付いた手首まで覆えるタイプのものです。「もう、少しくらいならゾンビに襲われても耐えられるんじゃないの?」というくらいの防御力がある反面、装着には手間がかかります。私は、焦りを抑えながら、それらの装備を一つ一つ丁寧に身につけていきました。
ホテルのフロントに鍵を預けて、バイク置場まで行くと、隣に仙台ナンバーのバイクが1台駐まっていました。私は、心の中で、「お先に」と挨拶してホテルを出発しました。昨夜、ホテルに着いた当時は、人も車も多かったのですが、今朝は人も車も少なくて、清廉な朝の空気に包まれていました。バイクを走らせるとすぐに、真っ正面に荘厳な山影が表れました。山肌には、まだ少し雪が残っていました。「うおっ!なにあれ。」と感嘆せざるを得ない景色でした。
盛岡という都市の中に突如あらわれた圧倒的な自然に心を奪われました。都市と自然という対照的な存在が、不思議と調和していて、はじめて見るタイプの景色だと思いました。もしかすると、エジプトのピラミッドはこんな感じに見えるのかもしれません。岩手県の最高峰、岩手山との邂逅でした。後で調べると、ホテルの近くにあった開運橋は岩手山のビュースポットの一つとされているそうです。出発から幸運に恵まれました。
発荷峠を目指す
午前8時頃に盛岡ICから東北自動車道に乗り、青森方面へと日本列島を北上していきました。朝の空気は若干冷たく感じました。十和田ICで東北自動車道を降りて、国道103号線(十和田道)で十和田湖の南岸に位置する発荷峠を目指しました。発荷峠を目指したのは、とりあえず、通過点としてナビの目的地に設定しやすかったからです。しかし、十和田ICを降りてから発荷峠までの道行きは想像を遥かに超えて素晴らしいものでした。この行程を走るためだけにツーリングのプランを練ってもよいと思えるくらいでした。はじめは平坦で真っ直ぐな道路で、だんだんと里山のような景色に変わり、山の入り口にさしかかり、ゆっくりと高度が上がっていきました。その間、ずっと美しい新緑に囲まれていました。前にも後ろにも車がない状態で、自然に没入したような感覚で走行できました。
発荷峠に到着するとなにやら観光施設のようなものが目に飛び込んできました。世界に自分一人だけのような感覚でバイクを走らせていたので、突然、人の賑わいを感じて現実世界に戻ってきたような感じがしました。なんと、そこは発荷峠展望台という施設で、標高631メートルの展望台から十和田湖を見下ろせる絶景ポイントだったのです。単に、ナビを設定しやすいので目的地に選んだのですが、嬉しい誤算でした。十和田湖は青森県(十和田市)と秋田県(小坂町)にまたがる湖なのですが、この展望台は秋田県側にあります。そのため、お土産屋さんには、なまはげグッズが売っていました。「そう。小坂町ね。私も小坂って言うんだ。。」だからなんだってわけじゃないのですが、ソロツーリングでは、こんなことも心の中でつぶやくしかありません。
冒頭の写真は、展望台から見た十和田湖の眺めです。下の「十和田湖奥入瀬渓流記念碑」は、展望台の下の道路脇に鎮座していました。次は、いよいよ奥入瀬渓流から八甲田山への道行きについて御報告したいと思います。