このページの目次
1 慰謝料が発生する場合とは
交通事故で傷害や死亡といった人身損害が発生した場合、被害者や御遺族は加害者に慰謝料を請求できます。対して、物的損害については慰謝料を請求できないのが原則です。
このように慰謝料は、通常、人身損害が発生した場合にのみ問題になります。
2 3つの慰謝料基準とは
裁判基準
被害者が加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合、裁判所は判決の中で慰謝料がいくらになるか判断します。この時に使用される基準が裁判基準です。他の基準と比較して一番高額になります。裁判基準こそが適正な賠償額の基準です。
弁護士が被害者のために賠償額を提示する際は、この裁判基準を使用するので、裁判基準と弁護士基準は同じ基準です。
任意保険基準
任意保険基準とは、加害者側の任意保険会社が被害者に対して賠償額を提示する際に使用する基準です。これは、各任意保険会社が独自に定めた社内的な基準です。基準といっても外部には公表されていないので、どういう基準なのか詳細は不明です。また、基準がどのように運用されているのかも不明です。たとえば、基準があったとしてもそれが画一的に適用されているかどうか分かりません。この基準は、自賠責基準よりは高くなりますが、裁判基準よりは低くなります。
自賠責基準
自賠責基準は、加害者側の自賠責保険が支払いを行う際に使用される基準です。自賠責基準は、自動車損害賠償保障法に基づいて定められており、公正かつ公平に運用されています。しかし、自賠責保険の保険金は、制度上、損害の一部のみを補償するように設計されており、不足が発生する部分は任意保険がこれをカバーするという関係にあります。したがって、自賠責保険は3つの基準の中では一番金額が低い基準となります。
3 3つの慰謝料基準の比較
傷害事案
交通事故により傷害を負って、入院したり、通院したりした場合、入通院慰謝料を請求することができます。
【事例1】
交通事故により頸椎捻挫、腰椎捻挫の診断を受け、整形外科に週2回のペースで合計50回、6か月間にわたり通院した場合の入通院慰謝料の比較は次のようになります。
裁判基準 |
任意保険基準 |
自賠責基準 |
890,000円 |
430,000円~600,000円 |
430,000円 |
※任意保険基準の金額は推計値です。
【事例2】
交通事故により肋骨骨折等の診断を受け、事故後20日間入院し、その後、整形外科に週3回のペースで合計60回、5か月間にわたり通院した場合の入通院慰謝料の比較は次のようになります。
裁判基準 |
任意保険基準 |
自賠責基準 |
1,130,000円 |
645,000円~800,000円 |
645,000円 |
※任意保険基準の金額は推計値です。
後遺障害事案
交通事故の怪我が原因で後遺症が残った場合、被害者は入通院慰謝料に加えて後遺症慰謝料を請求することができます。
【事例3】
交通事故により頸椎捻挫の診断を受け、後遺障害等級14級(又は12級)と認定された場合の後遺症慰謝料の比較は次のようになります。
後遺障害等級 |
裁判基準 |
任意保険基準 |
自賠責基準 |
14級 |
1,100,000円 |
- |
320,000円 |
12級 |
2,900,000円 |
- |
940,000円 |
※任意保険基準はケースバイケースのため掲載せず。
死亡事案
交通事故が原因で被害者がお亡くなりになった場合、お亡くなりになった方自身に慰謝料請求権が発生します。この慰謝料請求権は相続の対象となるので、実際は相続人がこれを行使することになります。また、被害者の近親者にも固有の慰謝料が発生します。
【事例4】
交通事故が原因で、家計を支えていたご主人がお亡くなりになった場合の死亡慰謝料の比較は次のとおりです。
御遺族 |
裁判基準 |
任意保険基準 |
自賠責基準 |
妻のみ |
2,800万円 |
- |
950万円 |
妻、子1名 |
2,800万円 |
- |
1,050万円 |
妻、子2名 |
2,800万円 |
- |
1,150万円 |
※任意保険基準は、ケースバイケースのため掲載せず
※自賠責基準は被扶養者がいる場合は200万円を加算
4 弁護士に依頼すると慰謝料が増額する理由
弁護士に交通事故の示談交渉を依頼すると、保険会社から提示された賠償額を増額できる可能性が高まります。その理由は次のとおりです。
保険会社が提示する賠償額は裁判基準より低い
裁判基準、任意保険基準、自賠責基準の順番で算定される慰謝料額は低くなります。保険会社が提示する賠償額は、任意保険基準に基づいたものであり、裁判基準に基づいた賠償額より低くなっています。したがって、交渉によって増額できる余地が存在します。
弁護士に依頼すると裁判基準で適正な金額を算定してもらえる
裁判基準は、民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)や交通事故損害額算定基準(通称:青い本)という本に掲載されていますし、インターネットから情報を入手することも可能です。しかし、正しく裁判基準を使いこなすには法律的な知識や経験が必要です。正しく裁判基準を使いこなして算定しなければ、賠償額を過小に算定するリスクがありますし、間違った計算では交渉の際に説得力が失われます。弁護士に依頼することで、裁判基準を正確に使いこなして適正な金額を算定してもらうことができます。そして、適正に算定された賠償額を提示することで、交渉に説得力が増します。
弁護士に対する社会的な信頼
交渉を成立させるためには、交渉相手との信頼関係を築くのが重要です。対立を深めるばかりでは、交渉は難航してしまいます。高い職業倫理をもっている弁護士は、保険会社との信頼関係を築くことに長けています。そのため、弁護士が示談交渉を行うことにより賠償額を増額できる可能性が高まります。
できれば裁判は回避したいという思いがある
弁護士が示談交渉を行っている場合、示談交渉が決裂すると速やかに民事裁判に移行するのが通常です。しかし、裁判には時間がかかるので、当事者にとってはデメリットもあります。弁護士に示談交渉を依頼した場合、「示談交渉の決裂→訴えの提起→長期間の審理→裁判基準による判決」という流れが容易に予想できます。保険会社としては、時間をかけた挙げ句、裁判基準による賠償が命じられるので何のメリットもありません。そのため、弁護士に示談交渉を依頼した場合、賠償額を増額できる可能性が高まります。